コンサート体験記

子どものコンサート体験

娘が丸山先生にピアノを教えていただいています。このたび、世界的に有名なピアニストのコンサートに娘が行く機会があり、とても良い経験をしましたので、親の視点からレポートさせていただきます。


◆ツィメルマンのピアノリサイタル、無料チケットに当選

そもそもの発端は、文化庁がサポートするピアノコンサートの子供向け無料チケット(詳細は後記)が当たったことでした。ショパンコンクールに優勝した経験を持つ世界的ピアニスト クリスティアン・ツィメルマンのピアノリサイタル。子どものみ招待か…と思いつつ、ダメもとで申し込んだら、運よく当選しました。

コンサートに行くことが決まった後に丸山先生に相談をさせていただいたところ、先生はご厚意でリサイタルの曲の背景や聞きどころを娘にレクチャーしてくださいました。また譜面も貸していただき、自宅でそれを読みながら曲を事前にCDで聞き込んで当日を迎えました。

会場は赤坂のサントリーホール。クラシック音楽の聖地とも言われる有名なホールです。当日は子ども一人で聴くことになります。このようなことは初めてなので、娘はやや緊張し、よそ行きの服を着て気張って会場入りしました。親はホールの向かいのレストランで念のため待機(と称して外食を満喫)です。

コンサート終了後、合流した娘は目を輝かせ、開口一番、「ツィメルマン、めっちゃピアノが上手かったよ!」と報告してくれました。感想は続きます。「音が星みたいにキラキラしてた、小さな音が子守唄みたい!」というのは大人が期待していたとおりの言葉で、聞いていてこちらも嬉しくなります。フォルテがちゃんと強い音だった、クレッシェンドのところは音がだんだん大きくなってた、曲の最後の音まで丁寧に弾いていたという、ごく当たり前のような感想もあり、「そりゃピアニストが弾いたらそうだろうね」という感じでその時は聞き流していました。


◆演奏会、その後

コンサートの影響はすぐにあらわれました。次のレッスンで、娘の演奏がガラリと変わったのです。まず譜面をしっかりと読むようになったと思います。音やリズムだけでなく、細かな指示にも目がいくようになりました。加えて、フォルテは強く、悲しい曲は悲しい音色で、聴いている人にもそれと分かるように。人に伝わる音楽を奏でるという視点が、娘には新しくできたようです。また娘のピアノから音楽の方向性のようなものを感じられるようになりました。譜面の指示通りに弾き、同時に何かを表現をすることは、演奏する上での両輪だと思うのですが、そこに一つの方向性が加わることで、娘の音楽にまとまりが生まれたように感じています。

コンサートの前に先生からプログラムの曲について解説していただけたのは幸運でした。そこで得た情報と、これまでレッスンの中で培った経験を総動員してツィメルマンの生の演奏を聴く。娘にとっては知識と演奏が結びついた初めての体験だったかもしれません。音楽というものに深い次元で触れることができたのではないかと思っています。また、ツィメルマンは世界でもっとも優れた演奏家の一人です。熱心なファンも多く、そのテクニックや精神性の深さには、録音であってさえ心を打たれます。そのピアニストの生演奏。音の響きにこだわったホールで、観客は奏者と一体になって音楽に潜り、その美しさそのものを垣間見たのかもしれません。


◆心に撒かれた音楽の種

「子どもが一流の演奏を聴いても意味がないかも」、「コンサートで子どもが退屈してしまうかも」と思うかもしれませんが、子どもは大人が考える以上に多くのことを感じ、理解し、吸収しているようです。

ツィメルマンの音楽は理想の一つだと思います。娘は幸いにもその演奏に触れ、体験することができました。自分では決して到達できない理想だとしても、ピアノを弾いていく上で、目指すものがあるのと無いのとでは大きく違うでしょう。私は今回そばで娘を見ていて、それを強く感じています。

ツィメルマンはリサイタルをとおして娘の心に音楽の素敵な種を撒いてくれました。今、その種が芽吹き、大きくなろうとしています。親としてこの成長を支えつつ、見守って行ければと考えています。


◆文化庁の子供文化芸術活動支援事業

「新型コロナウイルス感染症の影響下において、子供たちが文化芸術の鑑賞や体験をする機会が多く失われている状況を鑑み、劇場・音楽堂等で行われる実演芸術の鑑賞・体験等を子供たちに提供する取組を文化庁支援のもとで行われるもの」とのこと。要するに、当選すると子どもがコンサートや劇に無料で招待してもらえる企画です。とても良い制度なので、来年度も継続されるといいなと思っています。